ビジネスイベントで「経済成長」を疑う。パリから発する、新しい豊かさの再定義【ChangeNOW 2026 速報】
パリのビジネスイベントで「脱成長」がホットトピックに。毎年ChangeNOWを取材している編集部が目撃したのは、システムの微調整を超え、根本的な書き換えに挑む人々の熱い連帯でした。ケイト・ラワース氏やロブ・ホプキンス氏が描く、GDPを超えた「豊かさの最適解」とは。欧州の切実な危機感から見えてきた、私たちの次なる一歩を探ります。|by Megumi
パリの街に春の訪れを告げる風とともに、今年も世界最大級のポジティブ・インパクト・サミット「ChangeNOW」が開催されました。IDEAS FOR GOOD編集部として通年の参加となっている今回のサミット。イベントに参加した筆者がいち早く、現地で感じた「風向きの変化」をお届けします。
ChangeNOWはこれまで、さまざまなステークホルダーが参画していることもあり、良くも悪くも「ビジネス寄り」でバランスの取れたイベントという印象がありました。スタートアップのピッチや大企業の脱炭素への取り組みが主であり、経済成長を前提とした「改善」が議論の軸だったからです。
しかし2026年、その空気に変化を感じました。
最大の変化は、議論の本質が「システムの調整」から「システムの移行」へと明確にシフトしたことです。それを象徴するのが、「脱成長(Degrowth)」や「ポスト成長(Post Growth)」という言葉がメイントピックとして躍り出たことでした。
2025年のプログラムを振り返ると、それ以前に引き続き、企業や自治体の脱炭素や、多くのステークホルダーを巻き込むコミュニケーションといったテーマが中心で、脱成長を真正面から扱うセッションはほぼ見られませんでした。ところが2026年は、全60ほどのセッションのうち、5つのセッションが「脱成長」や「GDPを超えて」というテーマを大々的に掲げていたのです。
なかでも、経済学者ケイト・ラワース氏による「サーカスショー」は印象的でした。ドーナツ経済学を提唱する彼女のステージは、まさにエンターテインメント。バナナ型の電話を手に取り、奇妙な帽子をかぶり、ビートボックスが鳴り響く中で「母なる自然」が舞台を闊歩します。観客を巻き込みながら、既存の金融システムと自然が激突する「バイオスフィア(生物圏)のための戦い」が演じられました。
その狙いは、私たちが慣れ親しんだ経済のあり方を一度解体し、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の枠内で機能する、全く新しい経済の形を私たちの想像力の中にありありと描き出すことにあったのです。
また、トランジション・タウン運動を率いてきたロブ・ホプキンス氏は宇宙服のような衣装に身を包んで舞台に登場。彼は「未来から来たタイムトラベラー」という前提で、ポスト成長を成し遂げた未来のトットネス(英国のローカリゼーションの先進地域)の映像とともに、現代の私たちに投げかけました。
▶︎トットネスでの取材記事はこちら
ポスト成長という言葉は、学術的な文書の中にしか存在しません。私の仕事は、その世界に対する「憧れ」、すなわち、それを未来として実現したいという欲望を育むことです。都市を女性や子供たちのニーズに合わせて再設計し、ウェルビーイングを暮らしの真ん中に据える。人々の心の中に「未来の記憶」を作り出すことこそが、新しい世界を動かす力になるのです。
彼らのセッションは、AIなどのホットトピックを差し置いて、立ち見が出るほどの熱気に包まれていました。これは、もはや脱成長が一部の過激な思想ではなく、ビジネスの最前線にいる人々にとっても「無視できない、切実な問い」になったことを示しているでしょう。
この背景には、ヨーロッパが直面しているウクライナ戦争・イラン攻撃による資源の限界、そしてエネルギー安全保障への強い危機感があります。IDEAS FOR GOODのコラムでもいままで扱ってきた「十分政策(Sufficiency Policy)」や「適応」という概念は、ここでは共通言語として語られていました。これは決して遠い異国の話ではなく、日本もまた直面せざるを得ない共通の課題です。
ChangeNOW 2026が示したのは、もはや「良いことをして稼ぐ」という段階を超え、「成長を前提としない社会で、いかに新しい豊かさの『最適解』を探るか」という、より深い探求の始まりでした。
さらに深掘りしたレポートは後日改めてお届けします。パリで語られた「脱成長」の衝撃。私たちがこれまで信じてきた「豊かさ」の輪郭が、今、大きく塗り替えられようとしています。
▶︎2025年のレポート記事:【パリ現地レポ】AIから都市、鉱物、アートまで。私たちを取り巻く「変化」の意味を問うChangeNOW 2025
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