民主主義を求める声は、「何を」求めているのか
なんとなく良いものだが、具体的に何なのか説明しきれない──そう思い続けてしまったのが「民主主義」でした。希望ある制度として語られることも多い、民主主義。では、それが実現した先で期待する理想とはどんな生活で、そこでどんな「実感・感情」を大事にしようとしているのでしょうか。|by Natsuki
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暮らしている地域で、所属する組織で、「いま自分は民主主義のなかにいる」と感じる瞬間はあるでしょうか。そのとき、どんな感情、感覚になっているでしょうか。純粋な楽しいという感情、もしくは達成感や自己効力感でしょうか。
人口1,200人ほどの地域に暮らす筆者は、選挙前の井戸端会議から、気負わず役場の人に声をかけにいく場面から、どことなく「民主主義らしきもの」を感じます。
ただし、これらは必ずしも単に楽観的な、楽しいだけの体験ではありません。変化に心が踊ることもあると同時に、議論の擦り合わせについ苛立ってしまったり、面倒くさいと思ってしまったりする瞬間もあるものだと感じています。
そんな民主主義に、変化の激しい今、再び期待が寄せられつつあります。「もう一度、民主主義という仕組みに希望を見出したい」という、ポジティブな関心の高まりがみられるのです。例えば、2023年に民主主義ユースフェスティバルが始まり、2025年3月に学校内民主主義法案が参議院に提出され、同年5月には東京都・田園調布に民主主義博物館が開設、最近はデモクラシー・フィットネスが広がり始めています。
では、面倒くささも抱えながら、それでも民主主義が見直されるのはなぜなのか──議論や対話にネガティブな感情も経験した筆者には、そんな疑問も浮かんできます。
民主主義が希望であるとしたら、その仕組みを通じて、「何を」守ったり生み出したりしようとしているのか。面倒くささを乗り越えた先に、どんな「実感」や喜びを求めているのでしょうか。
民主主義を「測る」ことはできるのか
まず、民主主義とはそもそもどんなもので、それが「進んでいる・後退している」という評価はどのように判断されるのかをみてみます。
東京都教育委員会の資料では、民主主義は「簡単に言えば、人民が権力を所有し行使する政治のシステム」だと定義。続く解説によると、その起源である古代ギリシアの直接民主制は独裁者の出現で崩壊し、ヨーロッパでは絶対王政が続いたのち、近代に入ると啓蒙思想や、市民の合意にもとづいた権力の形を求める社会契約説(ホッブズ、ロック、ルソーなど)が登場、これらを後ろ盾とした市民革命によって王政は打倒され、民主主義は立憲主義や自由主義と結びついて現代の議会制民主主義へ発展したとされています。
東京大学の宇野重規教授は、講義動画「民主主義とは何か:歴史から考える」において、民主主義とは、単なる選挙や多数決の仕組みではなく、人々が当事者意識を持って社会の意思決定に参加し、その結果に責任を負う実践の過程であると解説。特に、公開の透明性・参加を通じた当事者意識・判断に伴う責任の3つに意義があると強調しています。
そして近年、その度合いを数値で示したり、デジタルツールによって市民の声を反映しやすくしようとする動きも出てきています。デジタル領域では、非営利組織・RadicalxChangeが、人間の複雑な感情や意思をより正確に社会に反映させるツール群「Plural Stack」を開発。数値化の例では、スウェーデンのヨーテボリ大学政治学部に研究本部を置くV-Demプロジェクトがあります。
V-Demでは、選挙制、自由主義、参加型、熟議型、平等主義という5つの主要な民主主義原則を区別し、これらを測定するためのデータベースを作成。自由で公正な選挙、市民の自由、司法の独立、行政権の制約、男女平等、報道の自由など600以上の指標を毎年測定しています。2025年末時点を示す最新のレポートでは、過去10年間で、V-Demの民主主義指標が上昇した国よりも低下した国のほうが多いこと、一方ほとんどの国が2025年においても2015年とほぼ同じくらい民主的であることが示されました。

そのほか類似例として「デモクラシー・インデックス(民主主義指標)」によると、世界平均は10点満点中、2023年は5.23、2024年は5.17へ低下、2025年は5.19へわずかに改善。2024年版で、日本は総合スコア8.48を記録し、世界ランキングで16位に。引き続き最高評価である「完全な民主主義 (Full democracies)」に分類されています。
こうして長い歴史を振り返り、データにも触れてみると、民主主義は改善に改善を重ね、人々の叡智が集まり、変化し続けているものと言えるでしょう。ひと言で「民主主義」と言っても、さまざまな要素が集まって成り立ち、今はある程度の共通基盤があっても制度に濃淡があり、グラデーションのように違いが現れるもののはずです。
パッケージではなく、当事者のあいだから創られるもの
民主主義は、丸ごとインストールできるような、パッケージのようなものではありません。市民が、地域が、どのような結果を望むのかによって制度を設計・調整し続ける必要があるものです。
だからこそ、その民主主義を通じて、その仕組みを主体的に使って、「何の実現を期待しているのか」を考えることが重要ではないでしょうか。
工具に例えるならば、工具が活きるのは、作りたい家具(仕組みやモノ)と、その後家具を使うことで得る便利さや楽しさ(感情)を期待しているがゆえのはずです。民主主義で考えると、例えば私たちは、単に「公正な選挙制度」が欲しいのではなく、それによって得られるであろう「自らの声が反映される自己効力感」を欲しているのかもしれません。
現に、データ上では日本も“民主主義”でしょう。それでも、国内で学校を民主化したり個人の主体性を育てたりする改善の動きがある。そして「いま民主主義を享受している」と実感しにくい人もいるでしょう。ならば、民主主義の中身を語らずして、民主主義そのものをゴールに掲げることはできないはずです。
さまざまな制度や文化が影響しあい、その生態系が「民主主義」として見えてきます。それはあたかも輪郭を持つかのように映りますが、実際には、それを構成している人々の意見や考え方、立場の交わりに応じて多様な形や表情を見せるのではないでしょうか。
言葉の「外箱」を外し、真に求めるものを掴む
今筆者が考えているのは、民主主義という言葉を使わずにいわゆる民主主義について考えてみたい、ということです。
その外箱、輪郭、名前だけが使われやすい民主主義という枠組みの中身に、今どんなものが詰まっているのか。はたまた、どんなものが詰まっていて何が得られると私たちは期待しているのか。
そんな「期待」や「理想」を解体してみることが、仕組みのグラデーションに対する解像度を高め、心情の変化を読み解き、枠組みに囚われすぎない一歩を踏み出す助けになるかもしれません。
今このコラムを読んでいるあなたにとっては、民主主義から「何を実感できること」に価値がありますか?
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