「いいことをしているのに、なぜか孤独」理想と現実の間で揺れる、企業のサステナビリティ推進の担当者たち。彼らが明かした、ジレンマと葛藤の現場とは?
2025年4月9日(水)から6月30日(月)まで、東京都港区に新しくオープンしたGlass Rock Galleryにて企画展「サステナビリティの本音」が開催中です。
「サステナビリティの本音~『自分だけじゃムリ』から『自分にもできる!』へ~」をテーマとした本展覧会では、企業のサステナビリティ担当者にヒアリングを行い、彼らが現場で直面する課題やモヤモヤしていることなどの率直な声を紹介。その後の行動のインスピレーションとなるよう、IDEAS FOR GOODの記事もリアルな場で展示されています。
今日のニュースレターでは、筆者が実際にギャラリーを訪れてみたレポートをお届けします。
日比谷線・虎ノ門ヒルズ駅の地下1階を歩くと、すぐにギャラリーの入口が見えます。
まず目に入るのは、巨大なスクリーン。ビッグデータの解析を専門的に行うVALUNEX社が、大手企業300社のサステナビリティレポートを分析し、そこで頻繁に使われているキーワードをマッピングした展示です。
最も頻出していたワードは「人権尊重」。その後に「CO2排出削減」「気候変動対応」「生物多様性」などが続いていました。投資家などからの評価を意識した結果、多くの企業がこれらのトピックを優先的に語るべきだと判断したことが分かります。
続いて、この展覧会のタイトルにもなっている「サステナビリティの本音」。社内での立ち位置に戸惑いながら、未来の可能性を信じて進むサステナビリティ担当者たちの声を図式化したものが展示されています。
「ぶっちゃけサステナビリティ担当者って、社内でどう見られてる?」という質問に対し、「会社としても重きが置かれている(プレッシャーもある)」「目の前のKPIを達成しないといけないのに、サステナビリティとか言って制限をかけてくる人として煙たがられることも……」「サステナビリティ担当者の仕事はキラキラしてて楽しそう。こっちはハードな毎日なのに。とやる前は思っていた」などの回答が見られました。
また、担当者の悩みとしては「経営層のサステナビリティの意識・理解度が上がらない」を筆頭に、「取り組むインセンティブは?」「これって本当にお金になるの?」「本当に消費者に選ばれる?」などの経済的なメリットが見えにくい状況についての言及が多かったほか、「(環境対策に注力している)ヨーロッパじゃないんだから、そんなに力を入れなくてもいいのでは?」「自分たちがやっていることは、本当に正しいのか?」と、サステナビリティ推進を日々行うなかで生まれた葛藤に言及しているものもあります。
一方、「本音」といえどネガティブな回答ばかりが集まったわけではありません。「サステナブルな商品を出してみると、意外と社内でも買ってくれる人が多い」「入社予定の大学生が、サステナビリティ部門で働きたいと言ってくれるとやりがいを感じる」など、前向きに道を切り拓く人の声も寄せられました。
IDEAS FOR GOODからは、「収入に応じてドリンク代が変わる公正なパブ」や「誰もが家を建てられるようにするスタートアップ」など、編集部が日々ウォッチしている国内外のクリエイティブな取り組みを展示パネルで紹介しています。
また、当メディアがまとめた「明日からできる小さなアクション」に対し、会場を訪れた人が投票できる仕組みもあります。ギャラリーでは、リアルタイムで結果が表示されていました。
企画展の最後には「わたしのサステナビリティの本音」という、参加者が感想やメッセージを自由に書いて貼り付けるボードがあります。そこには、こんな声が寄せられていました。
「環境も大事だが、ジェンダーや人権についてもっと語られて欲しい」「サステナビリティは総合的な取り組みだから変数が多くて難しい。だからこそ自分にしかできないこともあり、使命感を持っている」「心の底からいいね!と思ったことが長続きすると思う」
今回集まった「本音」の底には、さらなる本音が隠れているようにも思えました。そもそも誰もがサステナビリティに取り組みたいと思っているわけではない、取り組むにしてもコスト等はどうするのかと葛藤しながら進めている中で、今回このような声が可視化された展示を行うこと自体が、日本ならではの視点で良いなと筆者は考えています。
欧州の一部の都市のように、当たり前にサステナブルな選択が根付いている社会に比べたら「遅れている」と捉えることもできますが、ここであえて立ち止まり、オープンに疑問を呈することができるというのも、また大切なのではないかと。
企画展「サステナビリティの本音」は6月30日まで。ぜひ訪れてみてください。
【特設ページ】2025年4月9日〜6月30日「サステナビリティの本音」展
今回の展示会に合わせて、IDEAS FOR GOODでも特設ページを開設しました。会場で展示される、社会をより良くする企業と個人のアクションをご紹介しています。
また、会場での「明日からできる小さな一歩」の投票結果をリアルタイムで閲覧でき、Webからの投票も可能です。
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