期待と懸念の高まるネイチャークレジット。2026年、生物多様性はどう動くか
1月末に東京で開催されたネイチャーポジティブフォーラム。そこで議論の的となったのがカーボンクレジットならぬネイチャークレジットです。熊本県での国際会議も迫る今年、生物多様性の議論は加速するとみられます|by Natsuki
脱炭素。循環経済。これに続くのは、生物多様性だ。
そう思わせる期待感に満ちていたのは、1月末に東京大学で開催されたネイチャーポジティブナショナルフォーラム。およそ8時間にわたって企業・研究者・省庁・NGOが一同に会し、山海川の自然回復に向けた知見について、農業・金融・人材育成・コミュニケーションなどの視点から議論が交わされました。
中でも注目された話題の一つが、ネイチャークレジット(生物多様性クレジット/自然クレジット)です。脱炭素の分野において炭素排出の削減量を取引するカーボンクレジットと同様に、生物多様性の回復への貢献を可視化するネイチャークレジットの実現について議論が進められているとのこと。
しかし、この仕組みには大きなリスクも伴います。まだ未知の多い自然や生態系のことを十分に理解しないまま「クレジット」という数的な単一の価値軸で自然を評価しまうリスクです。環境省が2025年9月から進めている「生物多様性の価値評価に関する検討会」においても、日本もしくはアジア・モンスーン地域の自然特性に適した、多面的な指標の必要性が指摘されています。
そのリスクと向き合ってでも、ネイチャークレジットの導入に向けて動き出す理由は、2030年までのネイチャーポジティブ実現に民間資源が必要とされているため。大規模な資金調達のためには、マクロな金融の仕組みも欠かせないようです。会場でも生物多様性の回復に向けた現実的な選択肢として、慎重な議論を求めつつも、ネイチャークレジットへの期待が寄せられていました。
しかし、やはり成長重視の経済システムは頑丈なはず。議論の末にネイチャークレジットが実現しても、そもそも環境を破壊し続ける生産・消費の構造そのものが変わらなければ、経済活動が生み出す環境負荷をクレジットで穴埋めし続けるイタチごっこになる構図も想像してしまいました。
目標年が迫る中で、現実的な資金調達の方法を準備すると同時に、ネイチャークレジットというツールがあることで個人・自治体・企業の行動がどう変わりうるのかという点も、今後議論を深めていきたい視点です。
またもう一つ、会議で印象的だったシーンがあります。ある教授が壇上から「脱成長の本を読んでみてほしい」と呼びかけたのです。生態学や農学など理系の学者が多いと思われる会議で、社会経済学的な文脈で語られることの多い脱成長が持ち出されるのは、少し異例の組み合わせだった様子。実際に会場では、読んだことがある人は少なかったようです。
ではなぜ、ここで脱成長の話題があがったのでしょう。それは現在、環境問題がそれぞれの専門分野に特化した切り口から語られ、学術分野や産官学民の違いを超えた連携が情報共有にとどまっていることへの警鐘だったのではないかと捉えています。自然の長期的な回復には、技術や市民参加の議論だけでなく、経済制度やその前提にある価値観にも目を向ける必要があるのです。
会議の登壇者に産官学民を揃えるだけではなく、互いの理解を深め、異なるアプローチをとる人々が共に行動を起こす。そんな未来に向けて、小さな種が植えられた場にもなりました。
ネイチャークレジットを含むネイチャーポジティブの議論は、2026年前期にわたってさらに加速すると予想されます。7月には、熊本県で第2回グローバルネイチャーポジティブサミットの開催が予定されているのです。共催者によるリリースには、このように書かれています。
自然への悪影響の大部分は、私たちの生産と消費パターンから来ています。したがって、企業や金融機関は、測定や開示を含むネイチャーネガティブな慣行からネイチャーポジティブな慣行に移行することにより、ネイチャーポジティブな未来を実現するために極めて重要です。
ネイチャーポジティブが慣行、つまり「しきたり」として当たり前である社会が、目指すべき未来像の一つとして描かれているのです。この目標に向けて、半年間でどのような議論が重ねられていくのか。注目していきたいと思います。
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